ケッコン生活 
2016/05/01 Sun. 20:31 [edit]
艦隊は何ヶ月かに一度、大きな作戦を行う。多数の艦娘が絶え間なく出撃し、時に連合艦隊を組み、“姫”や“水鬼”などと呼ばれる上位種と死闘を繰り広げる。その時がいつ訪れてもいいように常に準備と対策を練るのが大淀の仕事だった。その準備は作戦終了直後から、或いは作戦中から始まり、およそ暇とは無縁の毎日を過ごしていた。
しかしそんな大淀にもほんの数日、凪いだ海のように静かに過ごせる時が訪れる。それは決まって作戦直前だった。
(今回もやるべきことは全て終わらせられましたね……)
毎日頭と身体を使い艦隊を勝利に導くべく働いた大淀には、疲労感とともに満足感を感じられていた。この段階になると艦隊は試合前のボクサーが練習と減量で疲弊した身体を休めるが如く、徐々に休みをとるように命じられていた。大淀も先刻、数日の休暇が与えられ自由の身になったばかりだった。作戦が始まれば再び編成や攻略に酷使されるため休むことは命令であり、義務とされている。
(とは言え何をしましょう?)
いつもは巡検と称して散歩に出かけたりもしていたが、今日の分はすでに終えてしまっている。
(提督はまだ忙しく出張していますし……。あ、提督の……)
大淀はやることを思いつき足早に執務室へと向かった。
提督執務室、出張中で主のいないその部屋には「不在」の札がかけられている。今日は秘書艦も提督に付き添っているため文字通り部屋には誰もいなかった。大淀は気にせず執務机へと足を運ぶ。そこには飲みかけのコーヒーが入ったマグカップや機密性の低い書類が山積みにされていた。普段は冗談は言いつつも几帳面な提督は整理された机で執務することを良しとしていたが、作戦前となるとそうも言っていられないらしい。
(よし、片付けてしまいましょう!)
普通の艦娘に提督の執務机をいじることなど許されてはいない。しかし大淀は極めて高度な機密に触れられる権限があり、またいつも提督とともに仕事をしているため何をどこへしまえばいいかを完璧に把握していたため躊躇せずにその判断を下した。
一度判断を下してしまえば後は早い。食器類は給湯室で洗い、廃棄待ちの書類はシュレッダーへ。過去の資料は再び所定のファイルへと戻す。机の上の山はみるみるうちに掘削され、平地へと戻っていく。しかしあるものを発掘した時、その手が止まった。
(何かしら、これ)
大きさはA4サイズほど。表紙と裏表紙がカラー印刷された数十ページくらいの本が二冊。大淀は見覚えはないもののどこかで聞いたことがあったのを思い出していた。
(あれは確か、そう秋雲さんが話していたものだったかしら。ということはこれが噂の薄い本、ですか?)
薄い本、という俗称で呼ばれるその本は正式には同人誌と呼ばれるものだった。艦娘の同人誌は人気のジャンルであり、多数の本が制作され売り買いされていた。政府も広報活動の一環と考えある程度は黙認している。機密が多い艦娘故に実際とは異なることが描かれていることもあるが、それすら楽しんでいる雰囲気があった。
(でも何でこんなところに……? それに確か薄い本というのは大人向けのものがあるとか)
そう考えだすと段々と恥ずかしさがこみ上げてきた。
(まぁ提督も男性ですし、構わないのですが何も執務室で……)
早く仕舞ってしまおうと思うものの、目線は表紙から外せなかった。それはきっと表紙に描かれていたのが大淀自身であり、そのタイトルに惹かれたからだろう。
(す、少しだけなら)
大淀は抗うことが出来ず、ついに表紙をめくってしまう。
――十数分後
ガチャっと勢い良く扉が開け放たれ男が入ってきた。
「ひゃっ!?」
扉が開くまで気が付かなかった大淀は心臓が口から出そうになるほど驚いた。
「何だ大淀か。何をそんなに驚いている。慎重なお前が珍しい」
「い、いえ、何でもありません」
提督は制帽をかけてから執務机へと近づいていく。
「おお、整理してくれたのか。助かるよ。最近暇がなくて、な……。お、大淀、その手に持っているものは!?」
「いえ、こ、これはどこへしまえばいいのでしょう!?」
上ずった声が静かな執務室にやけに響いた。
「……読んだのか?」
「えと、その……はい……」
この期に及んで言い逃れは出来ない。俯くしかなかった。
「ふぅ、迂闊だった。どこに置いたか分からなくなっていたが、こんなところに埋まっていたとは」
提督はそう言いながら移動し窓に向かい、大淀から背を向けた。
(やっぱり人の物を勝手に見るべきではありませんでした。幻滅されたでしょうか)
若干の後悔の念を抱きながら提督の後ろ姿を見つめる。しかしそこで違和感に気づいた。この角度では表情こそ読めないものの、提督の耳は赤く染まっていた。
(……あれ? 照れて、いらっしゃる?)
それを見て意を決して尋ねる。
「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「一つだけなら答えてやる」
提督は外を眺めながら答える。
「何でそのようなものがここに? ……いえ、質問を変えます」
一瞬間を置いて復活してきた頭で考える。
(これでははぐらかされますね。なら質問は……)
「何でそのような内容のものを提督が?」
「答えにくいものに変えてきたな。ん~、どう答えたものか」
ようやく提督は振り返り大淀を見つめ返した。
「まぁ大淀とそういう未来を過ごすのもいいなと思ってつい買ってしまったのだよ」
「それは、その……退役後も、ということでしょうか?」
「質問は一つと言ったはずだ」
頭を掻きながらそう答えた提督の耳は更に赤くなっていたが、それを見た大淀もまた赤く染まっていった。

Illustrator :ひなた さん
いやいけなくはないですね。TPOさえわきまえれば。本日二本目の更新です。
久々の執筆。秋雲は同人誌とは言っていないけど原稿書いているし同人誌くらい出してもいいですよね。ちなみに提督の机にあった同人誌がこちらの二冊。
最近まとめサイトで見たのをきっかけにpixivに行ってみたらすでにフォローしてあって驚きました。自分のことながらいつの間に。大淀株が急上昇する前から抑えてあったとは…。
ここにあるのはサンプルですが、今読むとどうしても全部読みたくなる。ということで早速メロンでDL。便利な時代ですね。
底なし沼の同人誌は手を出さないようにしていますが、貴重な大淀本には逆らえませんでした。ピンで描かれている本の少なさ。もっと増えろ!
内容的には全く大人向け要素はないのでそんなに赤くなるものでもありません。何気ない夫婦生活が描かれているだけ。でもそうなりたい願望のある2人なら、という感じで妄想してみました。
こういう何気ない日常が描かれている同人、大好物です。特別なことはなくてもいいから、ふとしたことで幸せを噛み締められるようなものをもっと読みたい。おすすめないですか?
あぁケッコンしてこんな毎日送ってみたい…。
ゼロアワーまで24時間を切ったこの段階でこんなもの書いていていいのかって? 暇なんだからいいのです!
あと24時間(+ロスタイム)でいよいよ春イベなんですねぇ。頑張りましょー。
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コメント
仲間~!w
自分もこの方の同人誌(紙の方)を所持しています(自分も大淀大好きなんで)。中々良いですよね(少しエッチな所もありますが...)。
さて、いよいよ明日ですね!予告通り20:30でメンテ完了するのか、はたまた毎度の如く1~2時間遅れで完了するのか、どちらにせよお互い頑張って行きましょう!
鶴提督のご武運をお祈りすると共に吉報をお待ちしております。
Con-Human #- | URL
2016/05/01 22:27 | edit
Re: タイトルなし
>Con-Humanさん
お仲間だー。大淀さんいいですよねぇ。特にビッグイベントのないけど幸せな日常。
間違いなく遅れて猫もついてくると予想を立ててすんなり終わるフラグを立てておきます。頑張ってまいりましょう!
激励ありがとうございます。Con-Humanさんもいつも通り、バッチリとぬかりなく戦果を立てて無事帰還することを願っています。
鶴 #- | URL
2016/05/01 22:52 | edit
1点差とは一体…。(前の前の記事を見ながら)
さて、明日からイベント。
猫が心配ではありますが、鶴さんなら心配ない。心配ない。(この記事を見ながら)
さみー #- | URL
2016/05/02 01:41 | edit
あぁ、金剛さんの目からハイライトさんが行方不明に!!
5/2は普通に仕事なので、帰宅してご飯や風呂を済ませたころにE-0突入できれば御の字…かな?
でもまぁどうせ、「先行組の情報を待つかー… ヒャァ!もうガマンできねぇ!!」になるんだろうなぁw
ハリ #- | URL
2016/05/02 02:07 | edit
Re: タイトルなし
>さみーさん
あれですよ。試合に勝って勝負に負けた、的な。
ケッコン生活だと金剛ちゃんはちょっと想像しにくい感じがねぇ。恋人ならいいイチャつきっぷりを想像できるのですが。でも良い母親にはなりそうだからなぁ。
猫は…日付変わったらおとなしくなってくれるでしょう。多分。
>ハリさん
ハ、ハイライトさん! 帰ってきて!
長らく行方不明っぽいハイライトさんですが、今のところ帰ってくる要素がないのが困る。
零時くらいまでは厳しそうなのでゆっくり行きましょう!
そしてヒャァ!となるのはもはや風物詩。モヒカンとバギー用意しておこ。
鶴 #- | URL
2016/05/02 18:45 | edit
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